獣医師コラム:ペットの緊急時【家庭でできる救急処置】
ペットが家庭で怪我や誤食、熱中症、心肺停止などの緊急時に動物病院に向かうまでの間、家庭でできる応急処置はどのような方法があるか知っておくことは大切です。今回はペットの緊急時に家庭でできる応急処置について解説いたします。
1. ペットが怪我や誤食をした、呼吸状態が悪いなどの緊急時は、まずはペットの状態を確認しましょう。
・呼吸状態、意識の有無、出血の有無
2. 次に動物病院へ連絡しましょう。
・かかりつけ、夜間動物病院、自宅から一番近い動物病院の電話番号はあらかじめ携帯電話や固定電話に登録しておきましょう。
・また、それぞれの病院への行き方、交通手段も普段から調べておくとよいです。自家用車がない場合にはタクシーの連絡先も事前に登録しておくと安心です。
・獣医師の指示あればそれに従いましょう。
◎ 爪からの出血
家庭での出血で多いのは爪切りによる深爪や、爪が折れたという事故です。爪からの出血は大抵が圧迫止血によって止まりますが、なかなか出血が止まらない場合や、爪が折れてしまった場合などは動物病院で処置が必要な事もあるので動物病院へ相談しましょう。
処置:出血部位を確認し、タオルなどで圧迫して止血します。
◎ 外傷による出血
処置:傷口が汚れている場合は水で洗い流し、出血している場合はタオルなどで圧迫して止血します。大量出血の場合、傷口よりも心臓に近い部位をタオルや包帯で強く縛ります。
(ケンカによる怪我は動物の歯や爪は菌が多いので、軽症に見えても後に化膿してしまう事があります。軽症でも念のため動物病院へ連れて行きましょう。)
◎ 火傷
台所で調理時、ペットが足元に居てはねた油がかかってしまった事故などがあります。
処置:すぐに患部を流水で冷やします。水を嫌がる場合は氷を包んだタオルなどをあてて冷やします。患部を冷やしながら動物病院へ行きましょう。
◎ 誤食・誤飲
異物や誤食した物によっては吐かせると危険な物もあります。オキシドールや食塩水による吐かせる方法がありますが、家庭でこれらをペットに飲ませることは困難な場合が多く、誤嚥などの危険性もあるためお勧めはできません。
処置: 家庭で吐かせる方法もありますが、動物病院で処置してもらう方が安全です。何をどれくらい食べてしまったのか確認し、実物があれば持参しすぐに動物病院へ連れて行きましょう。時間が経過してしまうと異物は腸へ流れて開腹手術が必要となる場合や、毒物は吸収されてしまうため様子を見ずにすぐに来院しましょう。
異物を詰まらせて窒息状態にある場合
ペットが窒息状態にある時は直ぐに処置する必要があります。
処置:口を開け異物が見える位置にある場合は手で取りだします。紐などが口から一部出ている場合は無理に引っ張ると危険です。動物病院へ直ぐに連れて行きましょう。
ペットが吐きだそうとしているけど吐きだせない場合
中型・大型犬→ペットが吐きだそうとするタイミングに合わせて、肩甲骨の間を手のひらを広げて数回叩くことを繰り返し、異物が出てきたか確認します。
猫・小型犬→ペットが吐きだそうとするタイミングに合わせて、胸を両サイドから手のひらを広げて吐きだそうとしている方向へ圧迫します。
他にペットが吐きだすタイミングに合わせて、拳を上腹部に当て斜め上方に圧迫する方法がありますが小型犬には適しません。
異物除去が不可能な場合は直ぐに動物病院へ連れて行きます。また、異物が除去された場合も、念のため動物病院で診察してもらいましょう。
◎ 熱中症
熱中症は夏でなくても高温多湿の環境により起こります。体が熱く、呼吸状態が悪いと感じたら涼しい部屋へ移動し、濡れたタオルで体を冷やします。太い血管が通っている首、わきの下、足の付け根を冷やすと効果的です。氷で冷やすと血管が収縮してしまい体に熱がこもってしまうので逆効果です。体を冷やしながら動物病へ連れて行きましょう。
◎ 心肺停止
処置:
- ペットがぐったりして意識がない場合、ペットの体の右側が下になるように寝かせます。
- 呼吸を確認します。胸が上下に動いているか?鼻先に手を当てて息が出ているか?鼻先に耳を近づけて呼吸音がするか?
- 心拍の確認。心臓の位置や内股の動脈を指先でふれ、拍動があるか確認します。普段からそれぞれの拍動にふれ、慣れておくとよいでしょう。
- 心臓マッサージ:前足を曲げたときに肘が当たる胸元が心臓のある場所になります。
心臓の位置に指をからませて手を組み心臓マッサージを行います。圧迫回数は1分間に100回~120回です。小型犬は3~4センチ、大型犬は5~6センチ胸が沈む力でマッサージします。1分後に脈を確認し反応がなければ繰り返します。
- 人工呼吸:猫・小型犬→鼻と口をくわえこんで、空気を吹き込みます。中型・大型犬→鼻をくわえこんで、空気を吹き込みます。人工呼吸1回につき心臓を5回圧迫が目安です。
※最近の考えでは気道確保、人工呼吸よりも心臓マッサージをできるだけ早く実施し、中断することなく続けることが蘇生率の向上につながるとされています。
心肺停止時は動物病院へ直ぐに連絡し、それと同時に心臓マッサージを行い、反応が見られない場合は動物病院への移動時も続ける事が重要です。
緊急時はインターネットで調べる時間もありません、万が一に備え緊急時の知識を覚えておくことが大切です。判断に迷ったら動物病院へ電話をして獣医師の指示に従いましょう。
携帯電話にはかかりつけの動物病院、救急・夜間動物病院の番号を登録しておくことも忘れずにしておきましょう。