獣医師コラム:猫の甲状腺機能亢進症
前回のコラムでは犬の甲状腺機能低下症について解説いたしましたが、猫では甲状腺機能低下症ではなく甲状腺機能亢進症の発症が多いです。この疾患は高齢の猫で発症が多く、甲状腺ホルモンの分泌過剰によって、体重減少、活動性の亢進、多飲多尿など様々な症状が認められます。今回は猫の甲状腺機能亢進症について詳しく解説いたします。
原因
・甲状腺の結節性過形成
・腺腫
・腺癌
症状
・体重減少
・行動の変化(活動性亢進、攻撃性の増加)
・多飲多尿
・消化器症状(食欲低下、嘔吐、下痢、多食)
・被毛の粗剛
・頻脈
・高血圧
・血液検査での異常(ALTやALP軽度上昇)
診断
甲状腺ホルモンの測定を行います。
甲状腺ホルモンT₄(サイロキシン)が高値であった場合、甲状腺機能亢進症と診断されます。検査結果が正常値であっても疑わしい症状がある場合には、後日に再度T₄を測定するか、fT₄(遊離サイロキシン)と組み合わせて判断します。
治療
・内科療法:抗甲状腺薬の投与
抗甲状腺薬の投与開始後、血中濃度が安定するまでは2週間程度の間隔でT₄の測定、血液検査(腎機能など)、血圧測定の検査が必要となります。
※甲状腺機能亢進症の猫では高齢であることが多く慢性腎不全を併発していることがあります。甲状腺ホルモンの過剰によって腎血流量が増加しているため慢性腎不全が潜在化してしまっていることがあります。そのため抗甲状腺薬投与後に潜在化していた慢性腎不全が顕著化する場合があります。治療開始後は定期的に血液検査を行い、腎機能や副作用に注意しなくてはなりません。
・外科療法:甲状腺摘出
内服の継続が困難な場合や、比較的若く甲状腺腫瘤が明らかな場合に患側の甲状腺摘出摘出が選択されることもあります。
・食事療法:低ヨウ素食(ヒルズy/d)だけを与える。
低ヨウ素食は過剰な甲状腺ホルモンの産生・放出を抑制します。しかし他の食事を少しでも与えてしまうと意味がなくなってしまいます。食事療法の場合でも定期的なT₄測定と血液検査(腎機能など)、血圧測定の検査が必要です。
甲状腺機能亢進症は高齢の猫に多く認められる疾患です。体重減少や食欲低下、下痢などの症状がみられた場合、高齢だからと年齢のせいにせずに動物病院で診てもらいましょう。ペットが健康に長生きするため、定期的な健康診断を受けることをおすすめいたします。