獣医師コラム:放置すると危ない病気、歯周病とデンタルケア
6月4日は、むし歯の日、6月4日~10日の1週間は歯と口の健康習慣です。ぜひこの機会に歯周病の危険性とデンタルケア必要性について考えてみましょう。
犬・猫の歯の病気で1番多い多いのは歯周病です。3歳以上の犬・猫の多くが歯周病になっているといわれています。ちなみに、犬・猫の口腔内はアルカリ性で、虫歯の原因になるミュータンス菌は酸性の環境を好むため犬・猫の虫歯はとても珍しいです。
■歯周病とは?
歯垢や歯石に含まれる細菌が増殖することで、歯肉や歯周組織に炎症が引き起こされる病気です。
歯周病の発生と進行
・食物残渣や細菌などの歯垢は食事後6~8時間で付着します。これは歯磨きで除去することが可能です。
・歯石は付着した歯垢と唾液中のミネラルが結合し石灰化することで発生します。これは、歯垢付着後3~5日で変化します。歯石は歯磨きでは除去できないためスケーリング処置が必要となります。
・歯肉や歯周組織に起きた炎症を放置すると、強い口臭、歯肉からの出血、歯のぐらつきや脱落が起こります。
・歯周病が進行すると、歯根に膿がたまる根尖膿瘍や皮膚や口腔、鼻腔にろう管を形成します。
歯周病の合併症
・歯肉から感染した細菌が血液中に入り、敗血症や心臓病など命に関わる合併症が起こります。
・小型犬では歯周病による歯槽骨の吸収が原因で下顎骨折が起こることもあります。
歯周病の治療
根本治療は歯垢、歯石除去になります。
・全身麻酔下での処置は、スケーリング(歯石除去)・ルートプレー二ング(歯肉縁下の歯垢・歯石を取り除き、歯の根面をきれいにする)・キュレッタージ(歯周ポケット内の炎症組織を除去する)・ポリッシング(歯の表面を研磨し歯垢が付着しにくくする)を行います。
・歯周組織の約2/3が破壊されている場合、修復は困難であるため抜歯処置が適応となります。
・無麻酔下でのスケーリング処置は歯の表面の歯石は減らすことはできますが、歯肉縁下の処置はできないため根本的な治療にはなりません。
歯周病の予防
歯周病の予防は、ホームデンタルケアを行い、歯垢を除去することです。歯垢は3~5日で歯石となり、歯石は歯磨き等で除去できません。歯石になる前に歯垢を除去することが大切です。
■デンタルケア
歯磨きを嫌がる子は多いです。ガムや玩具など楽しめるものを組み合わせて行うと良いでしょう。歯周病が進行している場合は、口腔内を触られることを嫌がります。無理をせず液体デンタルケアやサプリを使用し、歯磨きは治療してから行いましょう。
- 歯磨き
1番良い方法は歯磨きです。毎日行いましょう。毎日は難しいという方は・・歯垢が歯石に代わる前の2~3日に1度は行いましょう。
最初は口の中を触られることに慣らし、慣れてきたらガーゼや歯ブラシを使用し磨きます。子犬の頃から慣れさせておく必要があります。
動物用の歯磨きペーストを併用するとよいでしょう。
- デンタルガム
デンタルガムは噛むことで歯垢の除去に役立ちます。与える時は丸のみしないようきちんと見ていましょう。また、ガムが大きすぎたり小さすぎたりすると誤飲してしまう危険性があります。体重に合った大きさのものを選びましょう。
- デンタル玩具
遊びながら噛むことで歯垢を除去します。硬すぎるものは歯の損傷の原因になります。また噛みちぎれるものは誤食してしまいます。硬すぎず噛みちぎれないデンタルケア用の玩具を与えましょう。
- 液体デンタルケア
飲み水に混ぜるタイプや、口腔内にスプレーするタイプなどがあります。こちらは口腔内の環境を整えることを目的に使用します。
- サプリメント
プロバイオティクス(口腔内善玉菌粉末)のサプリメントがあります。口腔内善玉菌を飲ませることで、口腔内の悪玉菌を抑制する効果があります。
歯磨きができない子や、高齢で全身麻酔下での歯科処置が難しい子でも簡単に取り入れることができるのでおすすめです。
歯周病は口腔内だけの病気ではなく、進行すると全身性の疾患を起こす恐ろしい病気です。歯周病を放置せず、動物病院で適切な処置を受け、ホームデンタルケアをしっかり行いましょう。