獣医師コラム:犬の気管虚脱
動物病院で気管虚脱と診断されて気管に負担をかけないハーネスを探される方が沢山いらっしゃいます。今回のコラムは気管虚脱について、どのような疾患なのか?治療法はあるのか?予防するためにできることは?など詳しく解説いたします。
気管の構造
気管は首の動きに合わせ柔軟な屈曲ができる柔軟性を保ち、空気が連続して出入りできるよう内腔が潰れないように確保されていなければなりません。柔軟性と硬さを保つためC字の軟骨が積み重なった筒状の構造になっています。気管軟骨はC字の形をしているため、後ろ側は軟骨がなく膜性壁と呼ばれる平滑筋になっています。
気管虚脱とは
気管軟骨の脆弱化と膜性壁が伸長することで気管が扁平化(虚脱)します。原因はわかっていません。
考えられる誘発因子として
・遺伝的素因
・高温多湿
・よく吠えることによる気管内圧の上昇
・リードの牽引などの外的圧迫
などがあります。
症状
咳が一時的にみられます。重度では咳が持続的になります。軽度では特に症状がみられないこともありますが、進行するとアヒル様の呼吸音や呼吸困難を起こしさらに、さらに重症化すると呼吸停止を起こして命を落とすこともあります。
なりやすい犬種
・ヨークシャー・テリア
・トイ・プードル
・マルチーズ
・ポメラニアン
・チワワ
1~5歳での発症が多く、肥満傾向のことが多いと言われています。
また、多くはありませんがトイ犬種以外でも発生はみられます。
・柴犬
・ゴールデン・レトリーバー
・ラブラドール・レトリバーなど
短頭種気道症候群で気管虚脱を合併して起こすことがあります。
・パグ
・フレンチ・ブルドッグ
・ボストン・テリア
・イングリッシュ・ブルドッグ
・シーズー
診断
・臨床症状
・触診や発咳テスト
・レントゲン検査
・レントゲン透視検査
・気管支鏡検査
治療
内科療法
内科療法で気管虚脱を根治することはできません。内科療法の目的は症状の緩和、急性悪化時の救命です。
肥満犬は体重減量を実施します。症状に合わせて鎮静鎮咳薬、去痰剤、気管支拡張剤、ステロイド剤の投与や、酸素療法を行います。
外科療法
気管虚脱が進行し臨床症状が重度な場合には、根治を目指し手術が適応されます。外科療法には気管外プロテアーゼや気管内ステントの設置などがあります。
予後は重症度や術者の経験によりさまざまであると言われています。
予防するためにできること
・肥満防止
・高温多湿の環境を避ける、室温の管理
・気管に負担のかからないハーネスへの変更
・塵や埃の除去、喫煙者の禁煙など環境洗浄
・吠えないようにする
気管虚脱は軽度な場合には症状がみられなく、健康診断時などに発見され獣医師から指摘されることもあります。進行を止める方法や内科的に根治させることができない疾患です。重度な場合には呼吸困難や呼吸停止により命を落とす危険性もあります。発症していなくても誘発すると考えられていることは避けましょう。また、気管虚脱と診断された場合には症状がなくても、気管に負担を軽減するためにできることを心がけましょう。